それは5年前の話。
私は学生時代から仲の良い優奈(仮名)に誘われ、産まれてはじめて『街コン』なるものに参加しました。
大多数の女子がそうであるように、お目当ては出会いより食べ放題。私達もまた安い参加料を支払い、地元で評判の良い隠れ家店の創作料理を堪能していました。そこへやってきたのが田辺くん(仮名)、沢田くん(仮名)、山根くん(仮名)の3人組。意気投合した私達は度々5人で遊ぶようになりました。飲み会、カラオケ、ボーリング、ビリヤード…週に2回は会っていたでしょうか。いつも楽しくて、みんな笑っていました。

知り合ってから2ヶ月程経った7月の事。来月のお盆休みを利用して海辺の温泉街へ旅行に行こうという話が持ち上がりました。みんな楽しみにしていましたが山根くんだけは気が進まない様子少し心配でしたが嫌とは言わなかったのでスルーしました。

そ のまま8月になり旅行当日。私がレンタカーを借りに行くと、山根くんが待っていました。『俺が運転するよ』特に異論もなく山根くんが運転する事に。高速に 入り2時間後。車は県境近くにあるサービスエリアに入りました。トイレ休憩をすませ、各々がおみやげ物を買ったりソフトクリームを食べたりしていると、山 根くんがパンパン!と、手を叩きました。

山根『はい!集合ー。先生からみんなに大事なお話がありまーす!』
いつから先生になったんだよ。とか笑いながらみんなが集まると
山根『いきなりだけど、先生はココまでしか行けませーん。はい注目、ココね、ココ。』
彼が指さしたのは県境。みんなキョトン顔。
山根『更にいきなりだけど、君達の宿泊先は急遽変更になりましたー!お盆だから他の旅館はあいてないぞ?はいコレ、パンフレットねー』
てきぱきとパンフを配りながら道中の道のりを説明する山根くん。すると田辺くんが少し怒ったような口調で
田辺『おいおい、旅館変えるとか別にいーけど勝手にするのはやりすぎじゃね?』
沢田『わけわかんないこと言ってないで、ほら、行こ?』

沢田くんが山根くんの手を引っ張りました。
かなり強い力で。しかし、山根くんは県境から1歩も動きません。

山根『みんなごめんなー。俺マジで気付いてなくてさー。でもすげ楽しかったからギリギリまでみんなといたかったんだ。ありがとなー。ほんと、ありがとなー。』

笑いながら大きく手を降って、山根くんはポンッと消えたのです。私達はわけがわからず、しばらくぼんやりと立ち尽くしていましたが、ひょっとしたら何かのトリックで消えて旅館で待ってるかもしれないと言う事になり、そのまま4人で温泉街に行きました。
彼はどこにもいませんでした。
指定されたのは元々予約した旅館とはかなり離れた小高い場所にありました。モヤモヤした気持ちのまま宿泊し、
その夜。
私達が泊まるはずだった最初に予約したあの旅館が火事になり全焼したのです。

温 泉旅行など楽しめるはずもなく、わけがわからないまま翌日には帰宅。とにかく山根くんに話を聞こうという事になりましたが、誰も彼の連絡先を知らなかった のです。田辺くんと沢田くんは友達同士でしたが、山根くんは街コン当日に会場の入口で声をかけられ仲良くなったとの事でした。私達は週2で落ち合っていま したので次の遊びの約束はその都度口頭で交わしており、電話やメールはあまり必要ありませんでした。

田辺くんが街コンの入場の際、参加者情報を記入する為聞いていたという住所に行ってみると、確かに山根と表札のある一軒家がありました。たずねると初老の夫婦が住んでおり、山根くんのご両親でした。

彼は今年の春先、交通事故で亡くなっていたそうです。日にちは街コンの当日。開始2時間前でした。

それから毎年、私達が知り合った街コンの日はみんなで山根くんのお墓参りに行っています。

霊 とか幽霊とか呼ばれてるものって、要は人間ですよね?全部が全部ぼんやりとした残像に恨み辛みを込めた容姿ではないと思うんです。山根君のように自分が死 んだことに気付かず…むしろお金とか仕事とか、生前のありとあらゆる束縛から解放された毎日を普通に生活していて、あなたの隣で笑っているかもしれませ ん。