今から1年半ほど前、私は契約社員としてとある清掃会社で働いていました。基本的には引っ越しに伴った、退出してからのアパートの清掃がメインでしたが、時には独り身の方が亡くなられたあとの掃除や、夜逃げした部屋の後片付けなども引き受けているような会社でした。この頃、特に引っ越しシーズンでもなかったのですが、同じアパートから立て続けに清掃依頼が入っていました。そこはアパートと言っても、マンションのような建物で、中心が吹き抜けのようになっているのに、昼間でも薄暗く、あまり好きな現場ではありませんでした。
その日は、若い正社員の男の子(A君)と二人での現場入りでした。もともと古いアパートで、汚い部屋ばかりだったので「今日も大変そうだね。」などと笑っ ていたのですが、玄関を開けた瞬間に、二人ともが氷つきました。リビングにはゴミが散乱し、飲みかけの缶コーヒーがこぼれていました。毛布が何枚もくしゃ くしゃに置かれ、窓の網戸にはハエがたかり、部屋の扉にはガムテープで密閉されていたような跡があり、床には大きなシミがありました。「これはやばそうだ ね。」とはなったものの、やらないわけにもいかないので、とりあえず社長に電話で状況を報告し、A君はキッチン、私はお風呂場の掃除を始めました。しばら くすると、お風呂場の入り口から強い視線を感じるようになりました。ふと見ると、小学校高学年くらいの女の子がこちらをじっと見つめていました。特に何か をするわけでも、話しかけてくるわけでもありませんでしたが、それからはどこへ行くにもついてきて、常に視線を感じているような状態でした。霊感の全くな いA君ですら何かを感じ取っていたようで「さっきからここを誰かが通るんですよ。」と話していました。

そんな中で作業は進み、大半をやり 終えた頃にはすでに夕方になっていました。するとA君が「車まで道具とりにいってきます。」と出ていきました。正直、こんなところで一人で残されるのは嫌 だったのですが、早く帰りたい一心で作業していました。その時、あることに気が付きました。あの女の子がいないのです。どこへ行くにも必ずついてきていた のに、視線どころか、気配さえ感じなくなっていました。妙だなと思ったその時、すぐ後ろから「おい!おい!」と低い男の人の声で呼びかけられました。私が いる部屋は、玄関を入ってすぐのところにあるため、A君が戻ってきたら確実に分かります。また後ろには窓があるのですが、そこは3階。すぐ後ろから声がす るはずなんてないのです。意を決して振り返ろうとした瞬間、今度は真横から甲高い女の人の笑い声がしました。その声は部屋中に響き渡ると、すぐに聞こえな くなりました。それと同時に扉の前にあの女の子が現れ、とても悲しそうな顔をしながら消えていきました。

あの部屋で何があったのかは今でもわかっていませんが、この仕事をしてきた中で一番印象強く残っている体験です。