10年ほど前、私が中学生だった頃の話です。
昼休みの後に掃除の時間がありましたが、その頃私が掃除を担当していたのは、教材の資料室でした。
先生があまり見回りに来ないこの掃除場所は、生徒の間でも人気があり、担当場所替えの際には争奪戦になったものです。
掃除をサボっていても見つかりにくい場所だったのも人気の理由でしょう。
ドアは一つしかなく、全面が磨りガラスになっているため誰かが来てもすぐに分かります。
たとえ私達が誰か来たことに気づかず、来訪者がドアを開けても、数多くある教材の棚が目隠しとなり私達の姿はすぐには見つかりません。
そういった訳で、数人の友人たちと掃除もそっちのけでいつも遊んでいたのを思い出します。
 そんなある日、私達はこの部屋であきらかにヤバイものと出会ってしまったのです。

 いつものように教材で遊んでいると、友人が突然「誰か来た!」と小声で叫びました。
ドアの磨りガラスに人影が映ったようです。
慌てて遊んでいた教材を片付け、掃除道具を手にとって棚の影に隠れました。
しばらくマジメに掃除をするふりをしていたのですが、いつまでたってもドアは開かれません。
もしかすると、単に廊下を通った人の影が見えただけなのでは…?
先ほど小声で叫んだ友人も、そう思ったようです。

 そっと棚の角から顔を出し、ドアの方を窺ってみると…
「!!」
ドアの外に、やはり誰かが立っています。
しかし、なぜ?
そこから移動することなく、中に入ってくることもなく、なぜずっとドアの外に立っているのか…?

 その時、私達はその光景の異常さに気づきました。
ドアは全面磨りガラス、それなら、全身の影が映っているはずです。
どんなに背の高い先生でも、おでこの辺りまでは磨りガラスに収まるはず。
しかし、そこに立っている影は胸のあたりがすでにドアの高さを越しているのです。
私達がゆっくりと視線を上げたその瞬間、全員から小さく悲鳴が上がりました。

 ドアの上、地面から2メートル以上高さのある明かり取りの窓から、誰かがじっとこちらを見ています。
私達を見つめるその瞳は、人間そのものです。
しかし、その高さが普通ではありません。

 私達は誰も声を上げることができず、しかしその瞳から目を逸らしてしまうと、室内に入ってきてしまうのではないかという恐怖感から、眼を合わせ続けることしかできませんでした。
一体その状態で何分間が経ったのでしょう。

 やがて、その何者かは突然私達から視線をそらし、そしてすっとドアの前から移動しました。

 しばらく、そのまま動けませんでした。
やがて、掃除の時間の終わりを知らせるチャイムが鳴り、廊下には教室を移動する生徒たちの声が聞こえ始めました。
ようやく安心して、教材室を出ることができたのですが、その後はしばらく全員無言でした。

 今でもあれが誰だったのかはわかりませんし、学校内でそのような「もの」を見たという話しを聞いたこともありません。