これは5年前、私がお菓子工場のアルバイトとして働いていた時の話です。
繁忙期のみのアルバイトで、クリスマスからホワイトデーまで、寒い季節の仕事でした。
時間帯は夕方5時から深夜1時。
夜中ですが、昼間働いているわけではないので、眠くなることはなかったと思います。
仕事の後みんなでマクドナルドとか行くくらい元気でした。
仕事が終わるのは1時ですが、作業そのものは12時半に終わります。
最後の30分は掃除です。
食品工場なので掃除は念入りにやりました。
床も毎日モップがけするのですが、そのモップがすぐに傷んで、替えなければいけません。
その夜も新しいものに替えることになり、
「3階の倉庫にとりに行ってこい」
と先輩に命じられました。
私は倉庫のどこにモップがあるのか知りません。
一緒に来て下さいと頼むと先輩は
「絶対に嫌だ」
と強く断られました。
断固拒否という感じで不思議に思いましたが、理由は教えてくれませんでした。

仕方なく私は一人で3階の倉庫に行くことになりました。
工場は3階建てですが、この季節に稼働しているのは1階と2階だけ、3階へ上がる機会はそれまで一度もありませんでした。
仕事を初めて間もなくのことで、一人で3階へ上がるのだけでも心細かったです。
階段を上がりきると真っ暗でした。
稼働していないフロアなので、誰もいないし、灯りもついていません。
窓はあるのですが深夜なので本当に真っ暗なんです。
大きな工場なので相当広いのですが、その広い広いはずの空間が真っ暗闇で、静まりかえっていて、そこに踏み出すことはまるでブラックホールに落ちていくみたいに思いました。
あのときの心細さはよく覚えています。

壁をさぐるとスイッチがあり、幸いにも電気がつきました。
だだっぴろいフロアにたくさんの機械がならんでいます。
倉庫は廊下の突き当りのドア、と聞いていたので、機械のほうには寄らずに倉庫を目指して歩いていきました。
が、そのとき、何かが聞こえたのです。
自分の足音にまじって何か声がしたような気がしました。
誰もいないと思っていたけど、社員さんがどこかで作業をしているのかなと、廊下を歩いていきました。

倉庫は廊下の突き当たりにあり、ドアを開けるとモップもすぐに見つかりました。
モップを抱えて倉庫をあとにした私は、帰り道を急ぎました。
早足で機械の横を通りすぎようとしました。
だけど、そのとき見てしまったんです。
赤いものがチラリとひるがえり、並んだ機械の間を通りすぎていくのを。

それは赤いスカートの裾でした。
赤いスカートをはいた女の子が機械の部屋を走りぬけていったのです。
もちろん、こんなところにこんな時間に、子供が工場にいるはずがないんです。
そしてどう見ても、女の子は重たい機械にぶつかっても止まらず、すりぬけて行ってしまったのです。

私はもう走って逃げました。
なんだかよくわからないけど、見たくないものを見てしまったと感じました。
階段をかけおり2階に戻ると、モップをほうりだしてしまい、上司に叱られました。
電気を点けたままでしたが、消しに戻る勇気はありませんでした。

赤いスカートの女の子の霊が出るというのは社員さんの間では有名な話だそうです。
先輩もそれを知っていて
「おれは夜勤のときは絶対に3階に上がらないことにしている」
と後になって言っていました。
私はちらっとしか見ていませんが、女の子が「遊ぼう」と話しかけてくるとか追いかけてくるとか、いろいろな目撃談がありました。
私もそれ以来、2度と3階には近寄りませんでした。